再決断療法

再決断療法とは
再決断療法とは、幼少期に無意識のうちに行った「人生の決断」を見直し、現在の自分にとってより効果的な選択へと再び決め直す心理療法です。1960年代にアメリカのロバート・グールディングとメリー・グールディング夫妻によって開発され、交流分析を基盤としています。
私たちは誰でも、幼少期(主に10歳頃まで)に、生まれ育った環境の中で様々な体験をします。その時の環境で生き延び、安全を確保するために「人生の決断」を下します。しかし、客観的な判断力が未熟な子ども時代の決断は、大人になった今のあなたにとっては、自由を縛り、生きづらさを生む「トラウマ(禁止令)」となってしまうことが多々あります。
再決断療法は、そのような古い決断を見つけ出し、今の自分に合った新しい決断へと更新していく心理療法です。
幼少期の決断の影響
人の脳は生まれた時から完成しているわけではありません。
呼吸や心拍、感情反応などを担う古い脳は早い段階で機能していますが、客観的な判断や計画性を担う前頭葉を中心とした新しい脳は、成長とともに発達していきます。
幼少期の子どもはまだ十分な客観性を持っていません。そのため、
例えば親に怒られたときに、「自分の行動が良くなかった」と認識することができず、「私はダメな人間なんだ」と受け取ってしまうことがあります。
その時に感じた恐怖や悲しみ、孤独感とともに、「私は価値がない」という決断が脳に刻まれてしまうのです。
そして大人になってからも、似た状況になるたびにその決断が自動的に働き、生きづらさを生み出します。
再決断療法の実践
再決断療法では、当時の体験や感情を「今ここ」で再体験し、セラピストの手助けを借りながらその時に作られた決断を新しい決断に変えていきます。
ゲシュタルト理論を用い当時のネガティブな感情を「今ここ」に持ってくることで再体験させ、感情が動いているうちにポジティブな感情に置き換え、再び決断しなおすというものです。 (そのため、セッション中は過去形ではなく今体験していることとして現在進行形で話をします。)
トラウマのもととなっている決断は、体験したことの記憶にその時に感じたネガティブな感情が伴っています。体験は同じでもこの感情がポジティブなものになることで決断は全く違ったものになるのです。
再決断療法では、今ここで過去の出来事を再現し、当時の感情(転移感情)を感じている場面を作ります。 その時、クライエントはトラウマを負った年齢まで退行しその時感じたネガティブな感情を再体験します。
そこで、クライエントに安全を感じさせる手助けをセラピストが行います。 叱っている相手に見立てた椅子を突き飛ばす、「何をしているんだ!」とかばいに入る、その場から連れ出すetc…
そうされることで、同じ体験でも怖い・悲しい・腹が立つといった感情ではなく「守ってもらえた=安心・安全」という感情に置き換わるのです。
脳の回路の再構築
再決断療法は心理学的には「幼少期の決断のやり直し」と説明されますが、脳科学的な視点から見ると、これまで自動的に使われていた脳内の反応回路を再構築するプロセスと考えることができます。
私たちの脳には、大きく分けると本能や感情を担う古い脳と、客観的な判断や問題解決を担う新しい脳があります。
古い脳には、脳幹(トカゲ脳)や、扁桃体や海馬を含む大脳辺縁系(動物脳)があります。脳幹は生命維持や危険への即時反応に関わり、扁桃体は恐怖や不安などの感情反応を生み出し、海馬は体験や記憶の整理を担っています。
一方、新しい脳である大脳新皮質、特に前頭葉は、客観的に状況を判断する・問題解決を行う・他人と協調して作業を行う、といった人間特有の高度な機能を担っています(詳細は「前頭葉の力」をご参照ください)。
幼少期は前頭葉がまだ十分に発達していないため、子どもは物事を客観的に理解することが難しく、感情的な体験をそのまま受け取りやすい状態にあります。このとき、外からきた刺激は扁桃体や海馬などの古い脳に入り、過去の記憶とネガティブな体験が強く結びついています。
古い脳には時間の概念がありません。そのため、大人になった後でも似たような出来事が起こると、脳は過去の体験を、今起きていることかのように錯覚し、過去の体験と結びついた反応が自動的に起こります。
これが「赤のルート」です。
再決断療法では、過去の感情や記憶を体験すると同時に、それを前頭葉を使って「今ここ」から見つめ直すことで新しい脳のルートを作ることができます。
前頭葉が、「それ(幼少期の情動体験)はもう終わったよ」と古い脳に伝えるのです。
これが「青のルート」です。
青のルートが十分に育つと、以前であれば自動的に不安や恐怖に支配されていた場面でも、
「本当に危険なのか」
「今の私はどうしたいのか」
「他に選択肢はないか」
と考えられるようになります。
新しく作った脳内のルートはトラウマの種類や大きさによっては使い慣れるまで時間がかかることがあります。しかし、新しい選択肢を繰り返し使うことで、新しい回路は少しずつ強化されていきます。
その結果、
- 感情に振り回されにくくなる
- 自分で選択できる感覚が高まる
- 人間関係が楽になる
- 自己肯定感が育つ
といった変化が期待できます。
セルフリペアレンティングとの組み合わせ
再決断療法で新しい決断を行った後は、その決断を日常生活の中で育てていくことが大切です。
当カウンセリングルームでは、必要に応じてセルフ・リペアレンティング(自己再養育)の考え方も取り入れながら支援を行います。
自分自身に許可を与え、自分自身を支えられるようになることで、新しい選択はより自然なものになっていきます。
再決断療法が向いている方
次のようなお悩みをお持ちの方に役立つ場合があります。
- 自己否定が強い
- 何度も同じ人間関係の問題を繰り返してしまう
- 親との関係に悩みがある
- 人を信頼することが難しい
- 感情をうまく表現できない
- 過去の体験に縛られている感覚がある
- 事故の経験やPTSDがある
- 性的な虐待を受けたことがある
最後に
かつて子どもだった自分が、生き延びるために行った決断を理解し、そして今の大人の自分が新しい選択をすること。再決断療法は、そのための心理療法です。
私たちは過去を変えることはできません。しかし、過去によって決められていた未来は変えることができます。
今までとは違う生き方を選びたい方は、一度ご相談ください。